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『《金元寶》Gold Ingot』(陳妍妮 監督)インタビュー

9月18日
読了時間: 8分

Axi(s)Rhythm:

作品制作の経緯についてお聞かせください。


陳:

私は台南で生まれ、これまでこの場所を本当の意味で離れたことがなかったからです。

私にとって台南は故郷であり、自分の人生の歩みと切り離すことのできない土地です。ここには、これまで成長してきた中で積み重ねてきた、多くの記憶があります。

この作品は、私にとって一つの「一時的な保存場所」のようなものでもあります。


制作を始めた当時、私はちょうど卒業を間近に控えていて、卒業後に自分はどこへ向かうのかを考えていました。その頃の私は、「故郷を離れたいけれど、離れたくない」という気持ちの間で、ずっと揺れ動いていました。

一方では、台南を離れたら、故郷との間にある目には見えないつながりが少しずつ消えてしまうのではないかという不安があり、慣れ親しんだ場所を離れることへの寂しさもありました。

その一方で、別の場所での生活にも興味があり、外の世界がどのようなものなのか知りたいという気持ちもありました。しかし同時に、自分がそこに適応できるのだろうかという不安もありました。

そのため、『金元寶』を制作することは、私にとって、その時期に抱えていた矛盾や迷いを記録することでもありました。

この先、自分がどこへ行くことになったとしても、その時の故郷との距離の近さと、そこから離れたいという気持ちの両方を、この作品の中に残しておきたいと思いました。


Axi(s)Rhythm:

日本では「金元寶」はあまり馴染みのないものですが、「金元寶」とはどのようなものなのでしょうか?

また、陳監督ご自身にとって、どのような意味を持つものなのでしょう?


陳:

台湾において「金元寶」は、具体的な物であると同時に、一つの象徴でもあります。

かつては貴重な貨幣として用いられていましたが、現在では、円満や富、豊かさなど、ポジティブな意味を持つものとして捉えられることが多いです。


そして、この作品の中で「金元寶」は、私の故郷である台南を象徴しています。

幼い頃から、私は周囲の年長者から「台南は一つの金元寶のような場所だ」とよく聞いていました。街の形や環境、豊かな生態系、美食、歴史など、さまざまなものに恵まれた、暮らすのに良い場所だという意味です。

そのため、私の中では、台南と金元寶の間には、もともと自然な結びつきがありました。

しかし、私にとって金元寶と故郷である台南との関係は、決して美しいものだけではありません。

それは、私を包み込む温かな腕のようなものであり、私を育ててくれた養分でもあります。また、決して切り離すことのできない、自分の弱い部分でもあります。

その一方で、それは私を閉じ込める殻のようなものでもあり、簡単に背を向けることも、完全に離れることもできないものです。


そのため、『金元寶』の中で「金元寶」は、円満や美しさ、豊かさを象徴すると同時に、束縛や閉じ込めること、そして「殻」をも象徴しています。

私が表現したかったのは、一見すると矛盾しているこの二つの意味が、同時に存在している状態です。

大切に思い、慣れ親しみ、自分を育ててくれた場所であるほど、そこから離れることも難しくなるのだと思います。


Axi(s)Rhythm:

作品のモチーフのひとつとして「台南」を取り入れるにあたり、意識されていたことや、こだわられた点などはありますか?


陳:

この作品を制作すると決めたとき、まず、自分と故郷との強いつながりを表現したいと思いました。

同時に、「記憶」というものも強く意識していました。私にとって、この二つは、当時「故郷を離れるべきなのか」と考えたときの、大きな葛藤の中心にあったものです。

先ほどもお話ししたように、私はずっと「故郷を離れたいけれど、離れたくない」という気持ちの間で揺れていました。その矛盾した心理状態が、作品そのものにも、一つの矛盾として現れています。

登場する人物は、遠くへ向かって進み続けているのに、最後にはまた元の場所へ戻ってきます。

しかし、実際には私は一度も故郷を離れたことがありません。それならば、いったいどこへ「戻る」というのでしょうか。

私は、この目には見えないけれど、ずっと存在しているつながりを、作品の中の「紐」として表現しました。それは私と故郷をつなぐものであると同時に、私をそこにつなぎ止めるものでもあります。


また、「記憶」ということについて言えば、私にとって台南は、どこにいても自分自身のさまざまな記憶を呼び起こすことのできる場所です。

しかし、時間が積み重なっていくにつれて、記憶も、その記憶を受け止めてきた場所も、少しずつ変化していきます。

そのため、作品の中では、一見すると懐かしく、見慣れた風景でありながら、少しずつ見知らぬものへと変化していくような景色を表現したいと思いました。

それは、記憶が持つ一種の矛盾でもあります。私たちは、その場所がかつてどのような姿だったのかを覚えています。しかし、もう一度振り返ってみると、そこは記憶の中にある場所とは、すでに少し違っているのです。


Axi(s)Rhythm:

本作では刺繍を始め、さまざまな素材が用いられています。

それらを選ばれた理由などをお聞かせいただけますか?


陳:

作品の中で「紐」は重要な象徴の一つです。それは私と故郷との温かなつながりを表す一方で、自分自身を閉じ込める鎖でもあります。

私と故郷をつなぎ、結びつけることで、そこから離れることを難しくしたり、あるいは、離れることへの恐れを生み出したりする、「つなぎ紐」のようなものです。

私にとって、紐はとても特殊な存在でもあります。

二つの物の間をつなぎ、接点となることができる一方で、目には見えない形で境界線を引く刃のようなものにもなります。

壁のように明確で具体的な形を持っているわけではありませんが、それでも空間が分けられた痕跡を感じさせることができます。そのため、私にとって紐は、精神的な空間を生み出すものでもあります。

また、紐は繊維として、温度や手触りを感じさせる素材でもあります。しかし同時に、枠線のようなものにもなり、人や物事を一つの枠の中に閉じ込めることもできます。


それは、私と故郷との関係にも似ています。

故郷は私にとって温かく、自分を育ててくれた居場所であると同時に、私をその中に留める一つの枠でもあります。

作品の中で使用しているコラージュ写真は、私にとって記憶を再構築するためのものです。

一枚の写真によって故郷のイメージを作るのではなく、さまざまな写真を分解し、分析し、組み合わせ直すことで、自分自身にしか作ることのできない故郷の風景を再構築しています。

これらの映像は、私が長い時間を台南で過ごしてきた経験と、日常の生活の軌跡や記憶をあらためて見つめ直すことから生まれています。

自分が実際に暮らし、経験し、感じてきた台南を、もう一度この土地の風景の中から探し直し、断片的なイメージへと変換して、それを自分自身の生活や記憶に沿って再構成しました。

そのため、最終的にできあがったのは、客観的な「台南」ではなく、私自身のための「台南」です。

一見すると見慣れた風景でありながら、現実の風景とは少し違っている。それは、記憶によってもう一度加工された、懐かしくもあり、どこか見知らぬ故郷なのだと思います。


Axi(s)Rhythm:

エンドクレジットにメイキング映像を挿入されていますが、その理由について教えていただけますか?


陳:

理由の一つは、観客に作品の制作過程を知ってもらいたかったからです。

もう一つは、私自身がこの作品を制作する過程を通して、自分が故郷に対して抱いている感情を少しずつ理解していったからです。


作品の素材を集めていた時期、コラージュに使用する写真を撮るために、私はよく母と一緒にバイクに乗って、私自身の記憶の断片を探しに行きました。

私たちは場所を探しながら、そこでかつて起こったことや、過去の出来事を一緒に思い出していきました。

その時間は、母と一緒に過去の思い出をもう一度振り返るような時間でしたが、それと同時に、私たちは新しい記憶も一緒につくっていたのだと思います。

だからこそ、この「探す」という行為そのものが、作品の誕生過程にも似ていると感じています。

過去の記憶を探しながら、同時に新しい物語も生み出している。過去と現在は完全に分かれているのではなく、その過程の中で何度も重なり合っているのだと思います。


そして、この作品を制作することで、私は自分が実はとても故郷を愛している人間なのだと気づきました。

また、故郷で過ごす時間は、自分にとってとても充実していて、自然体でいられる時間なのだということにも気づきました。

コラージュに使う写真の素材を集める中で、私はあらためて故郷の周囲にある環境や風景を見つめ直しました。


人によっては、台南の一部を「何もない田舎」と感じるかもしれません。それでも私にとっては、その見慣れた風景がとても心地よく、安心できるものなのです。

この作品を通して、これまで当たり前だと思っていたものを、あらためてじっくりと感じることができたこと、そして自分と故郷との関係をもう一度見つめ直すことができたことを、とても嬉しく思っています。


そのため、メイキング映像の最後には、私の故郷の風景を一つ入れました。

私にとってそれは、単なる作品制作の記録ではありません。記憶を探し、故郷をもう一度見つめ直したこの時間そのものを、最後に作品の中へ残しておくような意味も持っています。

〔2026年9月14日(月)インタビュー( メール経由)より〕


【文責:Axi(s)Rhythm】



 
 
 

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