『ガラガラの夢』(工藤雅・張若涵 監督)インタビュー&感想
- 5月1日
- 読了時間: 9分

Axi(s)Rhythm:
作品制作の経緯についてお聞かせください。
工藤:
この作品は、シングル8のフィルムを使った多重露光の作品で、もともとはサイレントで制作しています。
作り始めたのは、コロナがまだ流行していて、海外との行き来に抵抗があった時期だったと思います。最初に、私が東京の部屋で撮影した8ミリフィルムを、現像せずに台北に送りました。
張さんが当時台北に住んでいて、そのフィルムに対して、台北の自宅でさらに光――映像を焼き付ける、つまり多重露光の作業を行い、それを日本に送り返して現像する、というプロセスで制作しています。
最初は2023年に新宿で開催した『蒸発書簡』というインスタレーション展示の一部として、8ミリ映写機にルーパーを使ってフィルムをループ投影する形で発表していました。
展示のメインは二人で映像をやり取りした〈映像書簡〉形式の作品をまとめてループ上映するものでした。コロナ禍で物理的な接触が制限される中で、「何かやらなければ」という思いから始まったプロジェクトです。
その過程で、作品の中に「手触り」のようなもの――実際に手を動かして作る感覚や、物理的なやり取りの痕跡――をどう残すかということを探求する方向に進んでいきました。
ただ、最終的にはデジタル作品として完成させる必要があり、その段階では触れることのできないものになってしまう。
それに対して、せっかく物理的なプロセスを重視して作っているので、展示としても何か「触れられる感覚」を伴うものがあった方がいいのではないか、という考えから、この『ガラガラの夢』というフィルム作品を追加で制作しました。
その後、この作品をスキャンしてデジタル化し、音も付けて、現在のような形態になっています。
Axi(s)Rhythm:
工藤さんから送られてきたフィルムを張さんが受け取られるということでしたが、フィルムの内容が分かっていないと多重露光ができないと思います。
その辺りのやりとりはどのようにされたのですか?
張:
フィルムは現像するまで内容を確認できないので、例えば10フィート分ごとに「何を撮ったか」をメモがしてあります。
そのメモをもとに、会話するような形で制作していました。
実際に現像してみると、思っていたのと違う部分もあって、いろいろと驚かされることもありました。
参加者A:
まさにオーバーラップの話だと思います。この作品がお二人の映像書簡だったということは、実は知らずに拝見していました。
フィルムはおっしゃる通り、現像するまで何が写っているか分からないですよね。巻き戻して重ねていくわけですから、例えば「ここから何フィート」といった目安はあっても、正確にぴったり合わせることはできない。どうしても感覚的で、ある程度アバウトにならざるを得ない。
その結果、出来上がったときに一番驚くのは、やはり撮った本人だと思うんです。これは、いまのデジタルで何度も確認しながら撮る方法とはまったく違いますよね。
例えるなら、陶器を釜に入れて、どんな色で焼き上がるか分からないような、ある種ブラックボックス的なプロセスで、いわゆる銀塩写真の特性が、このお二人の映像書簡の中に非常によく活かされていると感じました。その手法とプロセス自体がとても面白いと思いました。
また、二つの映像が重なるという点では、二つの音楽がいかに重なるのかと同様に思いながら観ていました。調和する瞬間もあれば、逆に不和のように感じられる場面もある。ただ、それがあたかも計算されたかのように重なっているところに驚きがありました。
さらに、オーバーラップについては、フィルムを巻き戻して重ねる方法と、デジタルで乗算や減算などの処理をする方法では、まったく質が異なりますよね。フィルムでは原始的な重なり具合から、リズムや調和、不和といったものが生々しく立ち上がってくる。
加えて、8ミリということは、基本的にファインダーを覗いて撮っているわけで、いまのように大きなモニターで確認しながら細かく調整することもできない。不鮮明なファインダーの中で撮られているからこそ、フィルムならではの面白さや重要性が強く感じられました。
工藤:
フィルムでは現像して初めて結果が分かることに、自分でもとても驚きました。
実は失敗している部分もたくさんありまして、そのあと、デジタルで修正した方がいいのではないかと考えたこともあったんですが、最終的にはあまり手を加えず、そのまま残すことにしました。
今回は自分が最初に撮影する側だったので、できるだけフィルムが感光していない状態で渡した方が、次の映像が見えやすくなると考えました。
これについては、事前に一度だけテストをしたことがあって、まだ手探りの段階ではあったんですが、例えばレンズを手で隠して意図的に暗い部分を作ることで、あとから重ねる映像がはっきり出るようにする、といった工夫をしていました。
張:
最初のテストでは、二人で多重露光をどう成立させるかが分からず、かなり試行錯誤して失敗も多かったですね。
今回の作品は、そのあとに撮影した2回目のものになります。
最後にデジタルで編集した方がいいのではないか、という話もしたんですが、結果的には手を加えず未編集のままにしました。
あらためて感じたのは、フィルムの多重露光には、デジタルではなかなか再現できない部分があるということです。
参加者B:
事前に「部屋はじっと耳を澄ませる」というキーワードが浮かんだのですが、よく考えたらフィルムの中にそのまま出てきていましたよね。自分ではすっかり忘れていて書いたので、同じ言葉が出てきてちょっとびっくりしました。
僕も昔、8mmカメラ――フジのZ700を持っていたんですが、実写は撮らずにアニメーションばかり撮っていて、懐かしい思い出があります。
それで、この作品についてなんですが、冒頭のあたりで彼女の口から「ガラガラという音がした」という言葉が出てきますよね。実はそこにずっと引っかかってしまっていて、「ガラガラってどんな音なんだろう」と考えながら最後まで見てしまったんです。
フィルムが回る音のことなのか、それとも別の何かなのか、とずっと考え続けていて。最後の方で女性が水に浮かんでいる写真が出てきたときには、これのことなのかなと思ったり、あるいは部屋の雰囲気から、歯磨きの時のうがいの音のことなのかもしれない、などといろいろ想像しながら見ていました。
ただ、結局ははっきりとは分からなくて。見終わったあとに残ったのは――私は右脳で考えるばかりで左の脳では考えないので漠然とした感想になりますが、どこか恐ろしさのようなものと、部屋の中に何もない感触でした。
それで、さきほどの「部屋はじっと耳を澄ませる」という言葉とも重なって、もしかしたら部屋そのものが、この「ガラガラ」という音を聞いていたのかな、という印象を持ちました。
おそらく監督の意図とは違う見方だとは思うんですが、何かが解決されるわけではないままこのフィルムを見終えた、という感覚が残っています。
工藤:
『ガラガラの夢』というタイトルについて、いろいろ考えてくださって本当に嬉しく思っています。
この作品はあまり説明的には作っていなくて、観た方それぞれに考えてもらえたら、という意図で作っています。なので、こうして受け取っていただけること自体がとても嬉しいです。
いわゆる答え合わせではないんですが、なぜ『ガラガラの夢』というタイトルにしたのかというと、きっかけになった出来事があります。
張さんが家に遊びに来てくれたときに、一緒にイメージフォーラム・フェスティバルを観に行ったんです。その日は奥山順市さんのパフォーマンスが行われていて、そのあと帰宅して張さんには泊まってもらったのですが、翌朝まだ寝ぼけているような状態で、張さんが寝言のように「ガラガラ」と声を出したんですね。まさに映写機の音のような、オノマトペとしての「ガラガラ」という響きでした。
そのあと起きてから、「夢は何語で見ているのか」と聞いたところ、中国語で見ていると教えてくれたんですが、確かに「ガラガラ」という音は耳に残っていて。
それは、前日に観た奥山順市さんの映写機を使ったパフォーマンスの影響なのではないか、と自分なりに解釈しました。
作品の解説はあえて説明的にはせず詩のような形で書いているんですが――それが発想のきっかけでした。
Axi(s)Rhythm:
張さんは「ガラガラ」って言ったことは覚えておられないんですよね。
張:
そうですね。面白い出来事だと思ったのですが、ちょっと思い出せないです(笑)
参加者C:
大変面白く拝見しました。フィルムでしかできないことをやられてるなって。皆さんと同じ感想なんですけど――それが、素晴らしいなと思いました。
多重露光を物理的に行うというのは、フィルムにしかできないですよね。で、この日本と台湾っていう、物理的な距離もあるし、時間的な距離もあるし、コンセプトを拝見すると、住み慣れた場所を離れようとしているっていう気持ちと、この新しい場所に来てまだそこに馴染んでいないっていう気持ち。これらの精神的な気持ちの距離みたいなものも、全てが一つのフィルムに焼き付けられているんだなって思いながら見ると、とても味わい深かったというか。
映像書簡になっているっていうことは知らなかったので、私は勝手に一人の人が台湾と日本で撮ったかのように感じながら見ていたんです。
そう考えると、すごく距離が離れたものを一つのフィルムに焼き付けて、それを今見ているんだっていうことがすごく詩的で印象に残りました。
張:
作った時期は物理的に大変で不安もあったんですけど、それでも作ってよかったかなと、今、改めて思いました。
Axi(s)Rhythm:
確かに、コロナの時期のことを踏まえると、何かしらの緊張感のようなものを、僕は勝手に感じてしまうところがあります。
ちょっと余談になってしまいますが、水に浮かんでる女の人の写真は『アンダーカレント』ですか?
工藤:
はい、『アンダーカレント』のジャケットです。
Axi(s)Rhythm:
『アンダーカレント』というアルバムはビル・エヴァンスとジム・ホールによる作品で、僕もそこまで詳しいわけではないんですが、このアルバムが出てくると色々考えてしまうところがあって。
ピアノとギター、二つの音だけがずっと絡み合いながら構成されているアルバムなので、『ガラガラの夢』との共通性を感じたのです。少し深読みしすぎでしょうか?
工藤:
アルバムは私の持ち物なんですけども、その感想を聞いて初めて確かにと…(笑)
背景が黒いので、画が浮かび上がってくるのではないかという期待をこめて、私が最初に撮ったものです。
レコードの内容まであまり意図せずにを撮ったものなので、共通するようなところがあるなら光栄だなと思います。
Axi(s)Rhythm:
すみません。何か変な深読みをしてしまうのは、観客にちょっと許されたところでもあるかなと思って。勝手な意見ですが(笑)
〔2025年10月23日(木)オンラインミーティング より〕
【文責:Axi(s)Rhythm】



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