『2009年、秋の会話』(木澤航樹監督)インタビュー&感想
- Keiji Takenaka
- 9月7日
- 読了時間: 5分

Axi(s)Rhythm:
作品制作の経緯についてお聞かせください。
木澤:
私はもともとフィクション映画を制作してきましたが、その中で「実験的な要素を取り入れた上でドラマをつくれないか」ということを考えていました。
また、作家として射精や精子といったテーマに関心を持っており、それを映像の中でいやらしくなく、直接的すぎない形で表現してみたいと思い、この作品を作りました。
参加者A:
主人公と女性が「子どもをつくるか、つくらないか」というテーマをめぐって、それぞれの考えが描かれていて。主人公には主人公の思いがあり、女性には女性の望みがある。その「こうしてほしい」という気持ちが伝わってきました。もし彼女が生きていて、父親が関わっていたなら状況は変わっていたかもしれないし、あの時点で妊娠していることを誰かに伝えていたなら、結末も違ったのではないか――そう考えさせられました。
もう一つ印象的だったのは、最近、映像作品を飛ばし飛ばし、早送りで鑑賞してしまう人が多いという問題がありますが、本作はそれに反して長い時間をかけて見せる場面があったことです。女性が店内でずっと待っているシーンが特にそうで、とても自然に感じられました。長い時間をあえてそのまま描くことで、日常の「間」を演出しているのだと思い、その意図が伝わってきました。
木澤:
ありがとうございます。
ストーリーに関しては、登場人物それぞれに三者三様の考え方がある中で、なるべく伝わりやすい形にまとめることを意識しました。また、この作品では「女性が待っている時間」というのが一つの大きなポイントだと思い、最初からそのことを念頭に置いて制作しました。
キャストの皆さんが自然なお芝居をしてくださったこともあり、その点はとても良かったと思っています。一方で、「実際にああいうことが喫茶店で行われるのだろうか」という疑問もあるかもしれませんが、逆にそこが自然さとして表れている部分でもあるのかな、と編集しながら改めて感じていました。
参加者B:
これは先ほども話に出ましたが、女性が待っているシーンの長さが絶妙でした。短すぎず、長すぎもしない。最初は普通に画面を観ているのですが、通常の映画のシーンとしてはやはり少し長めなので、その間に観客がいろいろ考えることになるんです。
私の場合はそこにユーモアを感じました。これは男性の方がうまくいっていないのかな、とか。話の内容自体はシリアスなのですが、あのシーンを逆に男性目線で捉えると、どこか可笑しく思えてきたんです。日常に潜むユーモアといいますか、シリアスな流れが続いていた分、あの場面で強いユーモアを感じて、とても面白いと思いました。
木澤:
そうですね。今、ユーモアと時間というお話が出ましたが、人間の体というのは、同じ性別であっても一人ひとり全く違いますし、時間の感じ方も人によって異なります。男性の中でも意見が分かれることがある。その意味では、こうした表現だからこそ可能になる対話や、多様な意見が生まれてくるのだと思っています。
先ほどのお話を聞きながら思い出したのですが、この作品を撮影した際、私がキャストの方に「6分か7分くらいで」と時間の指示を出していたんです。正確な数字は忘れてしまいましたが、だいたい6分程度を想定していたということを、この場で思い出しました。
参加者C:
僕は今10代なんですけど、この作品をもっと年を取ってから観たら、きっと全然違う見方になると思います。今回、子どもの話が出てきましたが、正直いまの年齢だとその部分はよく分からなくて。でも、もう少し大人になったときにどう見えるのか、また時間を置いてから改めて観てみたいなと思いました。
木澤:
私には子どもはいないのですが、このようなテーマで作品を作り始めたのは20代後半頃からです。現在32歳になりますが、その頃から周囲に子どもを持つ人が増えてきて、そうした環境の変化が自然と今回の作品づくりにつながっているのかな、と今お話を聞きながら思いました。特に自分で分析をしてきたわけではありませんが、振り返るとそういう面はあるのかもしれません。
また、シリアスなテーマを扱いつつも、その中に笑いの要素を織り交ぜていければいいなと考えています。
参加者D:
脚本がとても素晴らしいと思いました。それぞれの登場人物の会話が、すべて噛み合っていないんです。会社にかかってくる電話も含めて、どの会話もずれている。そこがまず印象的でした。
さらに、この作品には多くの要素が盛り込まれています。荒れた家庭環境や父親の問題、会社での問題、人工受精の問題など、さまざまなテーマが扱われていますが、それを説明的に描写せず、説明ゼリフも極力減らしている。それでも伝わるものがあるのが素晴らしいと思いました。
登場人物たちは全然噛み合っていないのに、その一方で「射精を待つ6分間」だけは男女が同じ時間を共有している。その時間が唯一の接点であるように思え、「もののあわれ」のような感覚を抱きました。
映像としても良い画があって、特に最後のお父さんの笑顔。おそらく彼は彼女に乱暴もしているわけですが、一瞬、笑顔が映し出される。それも会話は噛み合っていないのに、その笑顔だけが強く心に残る。そういうところに「これこそ映画だな」と感じました。
喫茶店のシーンですが、普通なら仲の良いカップルならホテルに行く、という展開になるところを、あえて喫茶店で描いてしまう。あの感覚が素晴らしいと思いました。
木澤:
ストーリーに関しては、なるべく説明を排除して、極論すれば100%伝わらなくても、何かしらの空気感が伝わればいいという思いで作りました。そのストーリーが、6分間のカフェのシーンにつながっている。つまり、実験的な部分とストーリー的な部分とが結びつけられた面もあるのかな、と今のお話を伺いながら改めて感じ、とても嬉しく思っています。
〔2025年7月27日(日)オンラインミーティング より〕
【文責:Axi(s)Rhythm】
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