『dumb songs 2024』(ヤノトシオ監督)インタビュー&感想
- Keiji Takenaka
- 9月6日
- 読了時間: 5分

Axi(s)Rhythm:
作品制作の経緯についてお聞かせください。
ヤノ:
そうですね。他の方の作品を拝見していると、僕の作品にはあまり“楽しいところ”がないなと思ってしまい、正直申し訳ない気持ちでいっぱいです。
もともとはイメージフォーラム映像研究所で課題として制作した作品を、今回あらためて再構成し、この形に仕上げました。
Axi(s)Rhythm
ご自身にカメラを向けられているのは?
ヤノ:
今回の作品についてですが、登場人物が「みっともないおっさん」ではなく「綺麗なお姉さん」だったとしたら、それだけで“いい感じの映画”に見えてしまうと思うんです。そういう風に受け取られてしまう可能性があるので、僕は「綺麗なお姉さん」を登場させることは基本的に廃止しています。自分自身を撮ることが、ある意味で一番誠実だと思うからです。だから僕は自分を撮る。自作自演する。その意味で、この作品は“日記映画”の範疇に入るのではないかと思っています。
作品には前半と後半がありますが、特に後半では「言語を用いない」という縛りを課しました。実は高邁なテーマがあったのです。「ある種の概念を言語を使わずに表現できるか」という――。
例えば、新約聖書で「もしあなたの目が罪を犯すなら、その目をえぐり取って捨ててしまいなさい」という一文があります。
それは、人間が物を見るときの“欲望の目線”を表しています。そしてそれは、映画を撮るときの目線であり、映画を観るときの目線でもある。だからどうしても「目」の問題は扱うべきだと思いました。
ただ、実際にやってみると言語を用いずに表現することはできなかったんです。劇映画として2時間ほどの物語を作れば、その一文を映画化することも可能かもしれません。台詞を使って概念というものを説明するしかないのかなと――。
最終的には、自分の中でごちゃごちゃと試行錯誤を繰り返しながら、今回の形に落ち着いた、ということになります。
参加者A:
最初はおじさんが一人で、本当に日常を過ごしているような場面で。ところが途中で天気が崩れ、その男性が「何もしない状態」で過ごしている映像が続き、するとその中に黒い影のようなものが映り込んで、さっきまでとはまた違う動きをしていました。デジャヴのような、でも少し違う――そんな違和感や不気味さを感じました。
また、途中で時々「目」が映り込んで、何かをじっと見つめているようにも見えました。日常の風景の中に、不気味さが入り込んでくるような感覚があって、とても不思議な印象を受けました。
ヤノ:
観ていただいて、さらに言葉にしていただけたことに感謝します。
そうですね。自分の中でも「これは何だろう?」と――例えば「あの黒い影は何だろう?」「あの目は何だろう?」といったように、あえて限定しない形で作っている部分があります。観る人それぞれが自由に解釈できる幅を残したつもりです。
もちろん突っ込まれれば「これはこういうものかもしれません」と説明することもできますが、それは言わない方がいいのかな、という思いも少しあります。
参加者B:
観ている間ずっと、水槽を覗いているような感覚がありました。水槽とか、あるいは虫かごを眺めているような感覚です。最後に出てきた「目」は、もしかすると観察者の目線なのかなと、勝手に想像していました。ペットなどを観察しているときの感覚に近い印象を受けました。
ヤノ:
とても深く観ていただけていることに感動しています。自作自演で撮っていることもあり、撮られている自分、撮っている自分、そして編集しながら見ている自分――その三つの視点は常に意識しています。
自分が生活している空間は、水槽のようでもあり、虫かごのようでもある。それを楽しんでいるようでもあり、不快に思っているようでもある。そうした感覚が常にあるので、それをもし感じ取っていただけたのなら、とても嬉しいことです。
参加者B:
映画の舞台も団地の範囲から出ないことで、まるで箱庭を覗いているような感覚があり、とても面白く感じました。
ヤノ:
まさにその通りで、私自身引きこもりのようなところがありますので、その感覚が無意識のうちに表れているのだと思います。それを受け取っていただけたのであれば、映画を作った甲斐があったのかなと思います。
参加者C:
先ほど監督がおっしゃったような深いところまでは考えられていなくて申し訳ないのですが、フィルムを観てまず印象に残ったのは「目」、そして「黒い影」でした。あの現実が崩れていくような黒い影がとても強く心に残っていて、ついそういうところばかりに目がいってしまいました。
「これは誰の目なんだろう?」と考えながら観ていて、自分の日常でも「誰かの目でこんなふうに見られているのかな」と思ったりしました。また、自分の日常もあの黒い影のように崩れていくように感じることがあって。もちろん現実そのものが崩れるわけではないんですが、精神的に「自分はダメだな」と思ったり、ときには「死にたい」とまで感じてしまうこともある。そういう部分と重ね合わせながら、この作品を観ていました。
ヤノ:
ありがとうございます。先ほど「そういうところしか…」とおっしゃっていましたけれど、むしろそういう見方も、僕のある部分を正しく捉えているのだと思います。自分が持っている感覚は、恐らく正しく伝わっているのだと感じました。そういう風に受け止めていただけるのは、本当にありがたいことだと思っています。
〔2025年7月27日(日)オンラインミーティング より〕
【文責:Axi(s)Rhythm】
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