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『現画Ⅲ』(立川清志楼監督)インタビュー&感想

  • 執筆者の写真: Keiji Takenaka
    Keiji Takenaka
  • 9月6日
  • 読了時間: 5分

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Axi(s)Rhythm:

作品制作の経緯についてお聞かせください。


立川:

私は数年間、毎月5本ずつ新作を作る、ということを続けています。この作品もその中から生まれたものです。制作を重ねる中で昔の実験映画を見る機会があり、そこでアナログ的な手法に出会ったんです。自分にも何かできないかなと思い、いろいろ試しているうちに出来上がったのが本作です。

最初は「写真を使って何かできないか」と考えて、いろいろ実験していました。その過程で、水に溶ける紙があると知り、そこに写真を転写して溶かすことから始めました。ただ、思うようには溶けなくて、試行錯誤を重ねた結果、現在のような形になっていきました。

当初はカメラで撮影した写真を使っていましたが、その後、動画から切り出した静止画を素材にするようになりました。今回の作品も、最初は動画から切り出した写真を「消していく」という手法で制作していたのですが、実験を重ねるうちに、「静止した写真がやがて動き出す」という表現が面白いと感じ、さまざまなパターンを試しました。本作はその中で制作した3番目の作品になります。

今回は絵の具を垂らすなどの手法も加えて、この作品の場合は「逆再生」にした方がより面白い効果が出ると気づき、演出として取り入れました。


参加者A:

とても面白く拝見しました。冒頭のどろどろとした赤などの原色の表現がまず印象的で、とても良かったです。その映像が逆再生されることで、下に隠れていた蝶の姿がだんだんと現れてきます。

同時に「最初のままでいいのにな」と思うわけです。逆再生によって色が減っていくことで、最初の豊饒な世界が失われていくような悲しさを感じたからです。

そして蝶の姿が浮かび上がったとき、一瞬「これは生きている蝶の上に絵の具を垂らしたのではないか? なんてひどい映画なんだ」とさえ思いました。しかしその後、普通に蝶の動画が始まる。その蝶たちは驚くほどの生命力を放っていて、餌に群がり、飛び立ちもせずにワシャワシャと動いている。

つまり、最初からラストまでを通してみると、中心点から正反対の方向に広がっていくような二重構造を持った作品でした。まさに「一粒で二度おいしい」作品だと感じました。


立川:

最初の絵ですが、あれはデジタルならではの凄いところで、コントラストを少し上げると、あの色が浮かび出てきたんです。そのあたりに、デジタルの力を改めて感じました。


Axi(s)Rhythm:

まず、この赤を基調とした抽象的な画面の色彩の面白さが印象的でした。そして、蝶がはっきりと姿を現し、羽ばたくときに感じられる大きな開放感もとても強く心に残りました。そうした点についてはいかがでしょうか。


立川:

これもデジタルの話になってしまうんですが、蝶の映像は室内で撮影したもので、その場所では三脚の使用が禁止されていたため、手持ちで撮らざるを得ませんでした。撮影時間も短く、当初はこの動画は使えないと思ってずっと置いておいたんです。ただ、映像自体はとてもきれいだったのでどうにか活かせないかと考えて、手ぶれ補正をかけてみたところ上手く処理できました。とはいえ、画面が微妙に揺れていて、逆にその揺らぎが生命感と言うか、作品にプラスに働いているのではないかと思っています。


参加者B:

蝶という虫が、ある種の被写体になっていると思いますが、終盤に蝶が動き出す場面があります。私は普段、羽がボロボロになった蝶をよく見かけるんです。蛾もそうかもしれませんが、蝶というのはどこか儚さをまとっている存在だと思っています。

それに対して前半では、蝶が固定されたまま止まっている。決して「羽が破れない」「壊れない」蝶のイメージが提示されていて、そこから最終的に儚い存在としての蝶が動き出す。その対比がとても印象的でした。


立川:

これは足立区にある生物園で撮影したものでして、そこには蝶専用の温室があって、その日に羽化した蝶をそのまま放しているので、ものすごく元気のいい蝶が飛び回っているんです。先ほどお話にあったように、街中で見かける蝶は羽がボロボロになっていることが多いですよね。それに比べて生物園の蝶は生命力にあふれていて、その強さは私自身も強く感じました。人工的な環境ではありますが、その中での「生命力」と言いますか…。


Axi(s)Rhythm:

監督ご自身は、事前のアンケートで《堆積》というキーワードをあげておられますが?


立川:

この制作は、単純にいろんな色を垂らしていって消していく。写真を消すために絵の具を足していったんです。最初に出てくるのは朱色の墨汁で、それでとても強い印象を持っていますが、その上にどんどん色を重ねていくことで堆積していきます。色が堆積するだけでなく、時間そのものや物質的な要素も積み重なっていく。最終的に写真そのものは消えてなくなり、物としては存在しないのですが、その過程と時間を映像として撮影しています。


Axi(s)Rhythm:

制作の際は、一回で仕上げるスタイルですか? それとも、何度か試していく中で完成形を探っていくのでしょうか。


立川:

2回やるようにしているんですけど、だいたい最初のほうがいいですね。2回目になると考えすぎてしまうので。

1回目はどうなるかわからない。その分、間もバラバラでぐちゃぐちゃになるんですけど、考える余裕がない分、かえって良いものができるんです。2回目になると、どうしてもフレーミングしたり意図的演出が強くなり作品自体の面白みが半減する場合が多いです。


〔2025年7月27日(日)オンラインミーティング より〕


【文責:Axi(s)Rhythm】

 
 
 

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