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『ManipulatedColorbars』(Yüiho Umeoka 監督)インタビュー&感想

  • 執筆者の写真: Keiji Takenaka
    Keiji Takenaka
  • 9月9日
  • 読了時間: 6分

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Axi(s)Rhythm:

作品制作の経緯についてお聞かせください。

Umeoka監督:

この作品を制作したのは2023年頃です。当時はいわゆる「NFTアート」、オンライン上で取引されるデジタルデータのアート作品の認知度が高くなっていました。そこで、「その流れに合わせて何か作品を作れないか」と考え、制作を始めました。

元になっているのは画像データです。カラーバーが増殖していくという作品をまず制作し、それを50点ほど作りためました。せっかく50点も作ったので、「これをもとに映像作品も作れないか」と考えて制作したのが今回の作品です。

参加者A:

カラーバーは映像作品の冒頭についているものですが、その「始まり」が永遠に遅延していくような感覚がとても面白く感じられました。

多分、監督の考えとは全く違う見方かもしれません。ただ、カラーバーというのは通常、映像の頭についているものですよね。それが延々と続き、さらに細分化されて別のものになっていく。「本編が始まらない」というのが私には面白く思えました。

逆に、途中から普通のドラマが急に始まってしまったら、それはそれで面白かっただろうなと勝手に想像しました。

Umeoka監督:

まさに今おっしゃっていただいたことがテーマではあったんですけど……

実はこの作品の前に、同じテーマでカラーバーだけで構成された作品を1本作っているんです。それが2016年のことで、絶対に上映が始まる前に必ず流してください、というルール付きで作ったものでした。なので、そちらはまさに今の話そのものがテーマだったんですね。

今回の作品は、それよりもカラーバーそのものが持つ可能性に興味があって、制作したものです。カラーバーって、どれだけ引き伸ばしても絵として崩れない。だからこそ、カラーバーを作品の“主体”としてどこまで成立させられるか?という点を考えて、このシリーズを作りました。

それと、やっぱり上映会に出品すると、この作品って必ず“一発目”にしてもらえるんですよ。実は、それがちょっと嬉しくて出品してるところもあります。今のところ、7回くらい上映していただいてるんですけど、どの上映会でも必ず一番最初に流してもらえるので、「カラーバー作品=一発目」というちょっとしたルールができているな、と最近気づいたところです。

参加者B:

小中学校時代の「休み時間」という言葉が思い浮かびました。この作品では、カラーバーだけで絵が発展していくというところに、「あるものだけで楽しく遊んでいく」ような感覚をすごく感じました。

何でもすぐ手に入る状態ではなかったあの頃、身の回りにあるものだけで遊んでいた記憶が自然と蘇ってきて、作品を観ながら、子供時代の空気を思い出しました。

それと、少し質問になってしまうのですが、NFTって2021年頃にブームだった印象があって、今はまた少し状況が変わってきているように思います。その点も踏まえて、今この作品を改めて観たとき、監督はどのように感じておられるのか、ちょっと気になりました。 

Umeoka監督:

この作品は、NFTアートとして2023年に発表したものなんですけど、先にNFTアート作品を作って、あとから映像にしたという形ではなくて、NFTアート作品として発表する前に、並行してこの映像作品も制作して、同時に発表するという形を取りました。

NFTアート作品で面白いと思ったのが、一枚一枚に値段をつけられるという点なんですね。今回は一枚2000円くらいで、50枚販売するという形式にしてみたんですが、結果的に一枚も売れませんでした。ただ、そのことで元の素材に改めて修正したということはなかったんです。というのも、この作品はプログラムによってカラーバーを増殖させるという仕組みで、毎回違う絵が生成されるので、“一点もの”であるいうことを重視している。そういう意味では、この作品はNFTアート作品だと思っています。

2023年当時にNFTアート界隈で流行していたのは、いわゆるコレクターズアイテム的な作品で、同じシリーズの中で「この柄はレアだ」といったところに価値がつく、というような印象でした。今回の作品でも、自分で気に入っている柄がいくつかあって、その場面を止めの画として使ったり、そのシーンを起点にして次の動きに展開していくような構成にしています。なのでやっぱり2023年に制作したというのが、この作品の根幹にはあるとは思います。

参加者C:

「菌類」「シャーレ」という言葉が思い浮かびました。この作品を観ていて、カラーバーってもともと無機質で、特に意味を持たない記号のような存在だという印象があったんですけど、作品が進行するにつれて、カラーバーがだんだん増殖していくんですよね。その増え方もどこか無作為で、ランダムに見えるというか……。その様子を見ているうちに、顕微鏡で菌類のようなものがシャーレの中で増えていくのを眺めているような気分になってきました。本来は無機質なものなのに、どこか生き物っぽい感覚があって、それがすごく面白く感じられました。

Umeoka監督:

本当に、まさに今おっしゃっていただいたことは、こちらの意図でもあります。もともとこの作品の作り方として、既存の映像ソフトを使うのではなく、プログラムによってカラーバーを伸ばしたり縮めたりすることで制作しているんですね。実はこういった画になった経緯というのが、僕が大学時代にプログラムの授業で出した失敗作からなんです。当時、プログラムをミスって出てきた絵が、たまたまこれだったんですよ。つまり実験の“失敗”から生まれたグラフィックだったんですね。

2016年に最初に作ったときは、それがただ楽しくて制作していたような感じでしたが、今回はそれをもう少し拡張したかたちでやってみようと思いました。この映像はプログラミングのバグで動かしているので、編集ソフトを使って「ここをこう増やしたい」といった操作はできません。ただ一部でグラフィックが重なっていくような部分はあとから編集で調整していますが、単にグラフィックが増殖していくような部分に関しては、7日間くらいプログラムをずっと走らせて、画面を見ながら「いいな」と思った瞬間をスクリーンショットで採取していっただけなんです。言ってみれば、培養液の中で菌が育っていくのを眺めながら、いい感じに増えたところで“採取”するような制作方法でした。まさに細胞が増殖していくようなプロセスに近い作り方をしていました。

参加者C:

実写とアニメの違いとして、よく言われることだと思うのですが、実写には比較的偶然性や偶発的な要素が作品の中に取り込まれやすいですよね。一方でアニメーションは、描かない限り“存在しない”世界なので、偶然の入り込む余地が少ないという印象があります。もちろんアニメの中にも偶発性はあると思うんですが、その点でいうと、監督の作品には“偶然”のようなものがすごく自然に取り込まれていると感じます。なんだか、生き物をそっと眺めているような感覚があって、それがアニメーションに軸足を置いている私のような者にとってはとても面白く感じられて、いつも拝見しています。


〔2025年7月27日(日)オンラインミーティング より〕


【文責:Axi(s)Rhythm】

 
 
 

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