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『響想詩「空の響影」四』(山里ぽん太監督)インタビュー&感想


――『響想詩「空の響影」四』を制作されたきっかけ、経緯について教えてください。


山里:

僕はアニメーションの制作を再開したのが2018年ぐらいなんですけど、以来ずっと「ファンタジア」というフィルムを作り続けています。ファンタジアとは、音楽に合わせて映像を作る――ディズニーの『ファンタジア』のようなものですが、私の作品はもっとシンプルなもので、自分で演奏した音楽に映像をつけています。

今回は、たまたまニコライ・アマニさんの『エレジー』という曲を演奏してみたところ、良い曲だな曲だと思って、これに映像をつけようと思ったのです。それで完成したのがこの作品です。

ご覧になってお分かりかもしれませんが、非常に手抜きのフィルムですが(笑)。しかし、しっかりと作った感じの作品です。


――山里監督は私が主宰する別のアニメーション上映会「Animation Runs!」にもよく出品して頂いていますが、この作品もかなりのプログラミングを行われたのでは?


山里:

それほど大げさなものではないですね。飛行機が飛んで行く、それをカメラで追いかける仕掛けをして、その上で音楽に合わせて撮影しています。

画面全体に対して写っているオブジェクトの面積は非常に少なく、せいぜい3%程度だと思います。それくらい簡単なものです。


――過去の作品ではレンダリングの際にパソコンから煙が出たという話を、以前お聞きしました。


山里:

今回は負荷の軽い画ですから、レンダリングに関しては特に苦労はなかったです。


――鑑賞された皆さんに、作品を観て思い浮かんだ言葉、感想などをお聴きしていきます。


感想1:

私は正直なところ、アニメーションについて詳しくはありません。しかし、紙飛行機の動きが非常に自然で有機的に感じられて、見つめ続けられます。その動きをずっと見ていると、不可能を可能にしているような感覚になります。アニメーションのマジックかもしれませんが、この作品がなければこの体験はできなかっただろうと。眺めている時間がとても心地よかったです。


感想2:

私はネガティブな意味ではなく、違和感を感じたんです。なんだか、自分の知っている感覚とはちょっと違うなと感じていました。その理由を考えてみると、紙飛行機――飛行機全般に対して、「絶対に落ちるものだ」という感覚があるからだと気付きました。子供の頃、自分の作った紙飛行機は飛ばしてもすぐに落ちてしまって、他の人よりも早く落ちるように感じていました。また、飛行機に乗るときも、「今日は落ちて死ぬかもしれない」と思ってしまうことが結構あります。

しかし、この作品を観ていて不思議に感じたのは、この飛行機がまったく落ちる気配がないことでした。落ちない飛行機という感覚はなかなかないもので、幸せな時間だったなと思いました。


感想3:

定点カメラの視点でずっと撮っている感じがしたのと、紙飛行機以外は抽象的なイメージなんですけども、それが同時に成立してるっていうのは、アニメーションならではの世界だなというふうに思いました。


感想4:

星が出てきたりお花が咲いたりするシーンがとても印象的でした。そういった表現はどこから来るのだろうと。特に、旋律に合わせて星がふわっと現れるのはとても綺麗で、お花が咲くシーンも夢っぽくて。ポップなビジュアルに対して、曲自体は少しマイナーな感じがして、そのギャップがとても切ない感じを引き立てていると思います。夏の終わりのような切なさを感じました。


感想5:

キーワードは「(紙)飛行機雲」です。紙(飛行機)の跡は、英語で「ペーパートレイル(Paper trail)」と言います。飛行機雲は「ベーパートレイル(Vapor trail)」と呼ばれます。まず、この曲がとても良いと思いましたし、映像としてもゆっくり見ていられる感じがします。紙飛行機雲について考えると、後ろにたなびいている軌跡がなければ、この紙飛行機は動いているように見えないのではないか、と考えました。飛行機雲が重要な役割を果たしているのではないかということですね。


山里:

鋭いです(笑)


感想6:

ピアノ曲の重厚感と飛行機の浮遊感がすごく気持ちが良くて、最初と最後のショットの紙飛行機が、真後ろから見た同じアングルだったので、終わりも始まりもないっていうか、永遠に繰り返しているような映像でした。ずっと見ていたいなあっていう感じがしました。


感想7:

音がスコンと当たる気持ちよさがありました。山里さんの他の作品を別の上映で見たことがありました。その時は視点があまり変わらない中で展開していく感じでしたが、今回の作品は視点がどんどん変わり、動いていく感じがして、風通しの良さを感じました。

そのピアノの音がスコンと当たる瞬間は、紙飛行機から軌跡が出るタイミングなんですが、音と映像のタイミングが異なるのが興味深かったです。紙飛行機が奥側にあり、私たちはこちら側から見ているので、紙飛行機の軌跡が見えるタイミングと音が鳴る瞬間には少しタイムラグがあるのです。そのズレが浮遊感に繋がったのかと思いました。


山里:

鋭いです(笑)


感想8:

音と映像のリンクが非常に美しく、背景が白いためにとても心地よく感じられました。その白い背景が逆に奥行きを想像させ、音の余韻を見ているような感じがしました。紙飛行機や伸びる線などの要素については、もしかすると水彩画や水墨画のような風合いがよりイメージに合うのではないかと思いました。もちろん、制作上の都合で現在の表現になっているのかもしれませんが、条件が整えば、もっと余韻を感じられるような水彩画風のラインが、制作者のイメージにより近いのではないかと感じました。


感想9:

こういった作品を見ていると、ついついストーリーを考えてしまうのは悪い癖かもしれませんが、開いていく花が蓮の花に見えました。ご本人は嫌がるかもしれませんが、蓮の花が咲く様子が、人の命や人生が終わっていく感じと重なりました。また、ピアノのリズムとモチーフのタイミングが非常に気持ちよく感じられました。これは監督が狙っている部分だと思います。紙飛行機の浮遊感については皆さんも言及されていました。監督は手抜きをしている言われていましたが、この感じを出すには相当鋭い感覚でアニメ―トしなければならないと思いますので、凄いものを持っておられる方だと感じました。画面の素材が少ないことについても触れられていましたが、それが逆に作品を見続けられる理由だと思います。間のある画面だからこそ、引き込まれるのだと感じました。

この映像をもっと見ていたいと思いましたし、蓮の花を連想しながら人々の人生の間を見つめる視点、まるで神の視点から人類を観察しているような気持ちになりました。勝手な解釈かもしれませんが、そう感じました。


山里:

ありがとうございます。あの、そんな大層なもんじゃありませんので(笑)

私のフィルムにこんなに多くの感想をいただけるとは思っていなかったので、驚きましたし、とても嬉しいです。水彩の話ですが、実は3Dソフトを使って水彩画を描くことはかなりトライをしています。しかし、現時点ではあまりうまくいっていません。

今回のフィルムについては、ペーパークラフト、つまり紙細工を意識して制作しました。私の能力には限界がありますが、少しずつ課題をクリアしながら改善し、皆さんに喜んでいただけるような作品を作っていきたいと思っています。ぜひ、またご覧ください。ありがとうございます。


――私は勝手に、元の曲がまずあってそれにアニメーションを合わせるように制作されていると考えていたのですが、監督のX(旧 Twitter)の発言では音楽側を調整されることもあるとのことで…。


山里:

両方やります。この画を作りたいから、それに合わせて音楽を作る、演奏する、ということもやります。

今回は、音に合わせて花が咲いたりしますが、音の数が多すぎると花がごちゃごちゃになってしまうわけです。だから花の数を少なく調整するとか。花が開く前の時間を作るのには、音楽のところをちょっとピアノの指を止めて、空白の時間を作って調整するわけです。そうやって演奏で合わせることもありますね。


〔2024年6月7日(金)オンライン交流会より〕

【文責:Axi(s)Rhythm】


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