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『走る体』(丸山真貴子監督)インタビュー&感想


――『走る体』を制作されたきっかけ、経緯について教えてください。


丸山:

もともとのこの作品は、短編映画を撮っていたその一部を抜粋した形になってるんです。実写で撮影をして、その映像をロトスコープの作品に仕上げる段階で派生的に生まれたんです。なので本編は別にあるんですが、人間がどういう風に動きを認識するか、というところを詰めて考えたいなと思ったんです。アニメーションの技法だけで言うと、最低限、肘とか膝がないと走ってる動きに見えないとか、方法論がある程度確立されてるんですけど、ここではそれを無視して、どこまでセオリー通りにせずに走っている動きに見えるかっていうことをやってみたんです。何度も何度も繰り返して動きを見せると、視聴する人たちの脳内で走る動きが補完されていくところが面白くて、こういう形になりました。


――鑑賞された皆さんに、作品を観て思い浮かんだ言葉、感想などをお聴きしていきます。


感想1:

通勤時間帯に走っている人を見るのが好きです。特に、走っている人たちには強い意思を感じます。歩くよりも強い意志が必要ですし、その点にとても惹かれます。私自身もせっかちな性格なので、走っている人を見ると、見ず知らずの人と自分が一体化したような気持ちになります。この作品を観た時も、その一体感を感じてとても気持ちよかったです。人はなぜ走るのか、どんな意志を持って走っているのか、とても考えさせられました。


感想2:

キーワードは「走る(走らない)体」。私の視力は0.01以下なのですが、メガネを外して観察してみました。その結果、最も「走っている」と感じた部分は膝先、肘下、手の先、足の先といった場所でした。一方で、最も「走っていない」と感じたのは、足先の動きだけをトレースして残像が波のように残っているところでした。

走る動きを描くことはプロのアニメーターにとっては当然できることですが、アマチュアにとっては非常に難しい、いわば鬼門とも言える技術です。


感想3:

私はこの作品を見て、とてもシンプルな映像だと感じました。しかし、音は非常に複雑で、赤ん坊の泣き声など、さまざまな音が組み合わさっていて、とても興味深いものでした。この対比が非常に面白く、遊び心を感じました。この作品は、あまり考えずに感覚を解放して楽しむものだと思います。


感想4:

作品を拝見して、別の作品を制作する過程で生まれたもの、というのがよく分かりました。私自身も以前、人が飛ぶ姿を撮影したいと思ったことがありました。走って、ジャンプしてもらうという撮影を行ったのですが、最初のジャンプが納得できず、結局一時間ほど繰り返しジャンプしてもらいました。そのままその様子を作品にしたのです。その時、人の癖が毎回現れたり、走る姿や飛ぶ姿に個性が出るのが面白いと感じました。

このように、一回の動作を細かく分析し、各部分に焦点を当てて見るというのは、また別の視点でとても面白いなと思ってて。最後のシーンで、人が実写で走ってきた時、もっと重たく感じるかと思いきや、非常に軽やかに走っていて、現実的な美しいフォームで走っている姿がとても爽やかなエンディングだと思いました。


感想5:

とても面白かったですね。走る体の解体がロトスコープのアニメーションで描かれていて、どんどん部分が切り離されていく様子が面白かったです。服だけになったり、下半身の残像が現れたりして。見た感じはほとんど全てが走っているように見えました。冒頭の方にあった、体から直線が出ているようなパートはあまり走っているように見えなかったんですが、その他はどんなに解体しても走っているように見えるんだなと驚きました。元々は実写の短編だったそうで、実際の動きが陸上部的な走りとは異なる素朴な走り、筋肉質な男性の走り方で、何か意味のある中で走っているシーンだったのが最後に分かって面白かったです。


感想6:

言葉で表すと「記憶にあるリズム」というのが思い浮かびました。動きとリズム、スピードが合わさって、走ってるっていう理解につながるんですよね。自分の記憶の中にある動きが理解のカギだったのかなと思います。前情報なしでパーツだけ見て理解するのは難しいですね。自分の記憶の中から似たものを引っ張り出して、それと比べることで理解が進むんだと感じました。


感想7:

この作品を初めて見たのは「Video Party」でした。今回2回目の視聴で、見方が少し変わったように感じました。特に認知心理学の実験のような要素が際立っているなと思いました。後半部分で遊び心が表れていて、非常に面白い作品だと感じました。以前は、人が走っている姿をどう認識するかに焦点が当てられている作品だと思っていましたが、今回はそれ以上の深いレベルで人間の存在や生きる意味について考えさせられました。自分自身がアニメーションを制作する立場として、この作品を気楽に見ることはできないかもしれないと感じました。実写映画だったら、同じように感じることはできないだろうと思います。ロトスコープのアニメーション化がこの作品を特別なものにしているのだと思います。


――いろいろ感想をいただきましたが、いかがでしょうか?


丸山:

ありがとうございます。すごく深読みされていて、自分で意図したような感想も頂いたなって言うのと、「記憶にあるリズム」とか、「アニメーション化がこの作品を特別なものにしている」というご意見とか、すごいなあと思いながら聞いてました。あと、メガネを外して見るっていうのがすごく面白かったです。私は目が良い方なので、そういう感覚で見れないというか。どうもありがとうございます。


――走る姿を様々な形式で見せていくというのは、ライブ的な感覚が強いのでしょうか?


丸山:

何個か試した内のギリギリのラインというか。まあ、これは走っている姿に見えなくもないかなっていうのを繋ぎ合わせているんです。何度も作りなおすことを繰り返して、「走っているように見えるかな」っていうようなものを、ピックアップしたっていう感じです。


――音づくりに関しては、かなりの色々な音を重ねられている印象があるのですが?


丸山:

走ってる時の音は、人によって多分全然違うと思うんですよ。なので、あえてその生々しさや、生活感を排除して――走ってる時に聞こえるはずがない音、っていうのを考えました。


〔2024年6月7日(金)オンライン交流会より〕

【文責:Axi(s)Rhythm】

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