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『集大成』(ないとう日和監督)インタビュー&感想



――『集大成』を制作されたきっかけ、経緯について教えてください。


ないとう:

卒業制作として制作したものです。元々『集大成』より先に完成している映像作品があったんですが、周りの人たちよりもかなり早く仕上がっていたので、もうひとつ何か作品を作れないかと思ったことが、この作品を制作するきっかけのひとつとなりました。


――この作品を作られた当時のことを振り返って、何か思い出されることはありますか?


ないとう:

もう12年前のことなので、現在はだいぶ落ち着いていますが、あの当時は色んな事に対してイライラしたり、不安になったりといつも不安定な状態でした。

しかも、卒業制作として『集大成』を含む映像2作品を提出する予定でしたが、後から2作も提出するのが恥ずかしくなってしまい『集大成』は提出せずに最初に作った映像1作品だけしか提出しませんでした。

今振り返ると、『集大成』も出してもよかったのかもしれませんが、当時は自信のなさや、他人にどう思われるのかが気になってしまい、提出できなかったんです。


――内容的なことで、提出するのを躊躇されたのですか?


ないとう:

そうですね。

私は映像制作のゼミに参加していたのですが、そこのゼミ生たちと親しくなかったんです。だから自分の作品がどのように評価されているのか意見も聞けないし、先生に相談しても、どの作品に対しても好意的なことしか言わない先生ばかりであまり信用できなくて...

だから『自分の作品ってどんな風に思われているんだろう?』とずっと疑問や不安を感じていました。

一度、別の学部で仲の良い友達がいたので、その子たちに作品を見せてみたんですけど、反応が「ふーん」って感じで…。

それで『この作品は人に見せない方がいいのかも』って自信を失くしてしまったんです。


――鑑賞された皆さんに、作品を観て思い浮かんだ言葉、感想などをお聴きしていきます。


感想1:

ないとうさんの作品はこれまでいろいろと拝見してきましたが、今回の作品はまさにその「集大成」と言えるのではないでしょうか。これまでの作品にさらに新しい要素が加わったような印象を受けました。

例えば、おじさんと女の子が登場するシリーズ(『Uncle and Girl』『in KOBE』『ちっちゃな手』)や、脳みそが落ちてくるアニメ(『ブレインアニメ』)など、これまでに見たことのある要素が核となっているように感じます。しかし、その周りには新たな要素が加わり、作品全体がさらに広がりを持った印象を与えています。まるで、既存のテーマの周辺を新しいアイデアがポコポコと回っているような、そんな作品だと思います。


感想2:

今回の作品についてですが、「自分の中で無茶苦茶にしてみた」と書かれていましたが、まさにその無茶苦茶な部分が溢れていて、これこそ私が観たい作品だと思いました。ないとうさんが以前、「見せる自信がなかった」とお話されていましたが、そういった迷いを感じる作品ほど実は魅力に溢れているものだと思います。

今回、ないとうさんがその部分を見せてくださったことが本当に嬉しいです。無茶苦茶だとおっしゃりながらも、作品はしっかりと作り込まれていて、途中で立体的な表現になったりする展開には、本当に「やられた!」という感じがしました。とても楽しかったです。


感想3:

かなり鬱屈した部分があると感じられました。


感想4:

僕はないとうさんの作品を何度か「VIDEO PARTY」等で拝見したことがありますが、過去作のおじさんと女の子が登場する作品などは物語がしっかりと構築されていて、また一方では今回のような断片的な要素で出来上がっている作品があって。同じ方向性を持ちながらも、一方では形を作り上げていく力があり、他方ではそれがバラバラに分解していくような感覚が同時に存在しているように見えました。そうしたものがセットになっているのかなと思い、興味を引かれました。


感想5:

とても面白く拝見しました。「むちゃくちゃな状態や方向を描いた」という風に紹介されていたので、そういう混乱した状態を意図して表現しているのだろうと考えながら観ていました。

しかし、むちゃくちゃなものをそのまま「むちゃくちゃ」として見せるのって、実は非常に難しいことだと思います。そう見せるためには、しっかりと考えて構成しないといけないはずです。具体的にどういうことを考えておられたのかまでは分からなくても、途中でイメージが砕けたり、いろんな要素がごちゃ混ぜになっていく感じがあり、それが十分に伝わってきました。最終的には、その混乱が頭の中に集約されていく様子まで描かれていて、「むちゃくちゃ」と言いながらも、それをきちんと作品としてまとめ上げている点が、素晴らしいと思いました。

混乱状態をそのまま伝えるというのは難しいことです。しかし、この作品ではそれがしっかりと描かれていて、そこが本当にすごいなと感じました。


感想6:

この作品は以前も拝見しましたが、近年のないとうさんの作品に至るまでの経過が反映されているのかな、ということです。一見すると、とても可愛らしいキャラクターが登場するのですが、だからこそ感じられるダークな雰囲気があり、見ている側の想像力をかき立てられる要素がたくさん含まれていると感じました。

特に、紙粘土を使った立体的な表現が印象的で、まるで紙の中から飛び出してくるかのような迫力があり、とても面白いと感じました。また、音楽も切迫感がしっかりと表現されていて、その点も非常に興味深かったです。


感想7:

私も今回、卒業制作を出品させていただいたので、まずは近しいものを感じました。第一印象としては、もがいている、苦しんでいるという感覚がすごく伝わってきました。私自身、学生の頃に作品を生み出す苦しさを強く感じた経験があり、それに共感したんです。

特に印象的だったのは、パンツが飛んでいる場面です。女性の肉体的な生々しさや、カオスな感じ、そして苦しさが表現されているように感じました。一方で、幼い頃に風邪をひいたときに見た夢のような、声にならない叫びを思い起こさせるシーンもあり、色々な感情がごちゃ混ぜになっている印象を受けました。非常に面白く観させていただきました。


感想8:

『集大成』という作品については、何度か上映会以外でも見る機会がありました。そのたびに、ないとうさんのインタビューを聞くと、作品に対するコメントの多くはどちらかというとマイナスなイメージが多かったと感じています。しかし、「集大成」というタイトルからは、過去の積み重ねがあってこその作品というポジティブなイメージが浮かびます。

「集大成」と聞くと、これまでの経験や努力の結晶がどう表現されているのかに期待が高まりますが、実際には意外なギャップがあります。例えば、お蔵入りにした作品であったり、さまざまな画材や実験的な要素が取り入れられていたりします。紙粘土を使ったり、ルーズリーフに描いたり、夜光塗料のような特殊な素材を使うこともあり、常に予想外の手法が見られるのが面白いです。タイトルとのギャップが際立っています。

『集大成』の前段階として、習作的な作品があったのでしょうか?


ないとう:

確かあったとは思いますがそれに関してはあまり記憶がないです。 色々なものを試したのは『集大成』だけで、ほかの作品は紙だけとか、デジタルだけとか、粘土だけとか、一つの手法だけとなっていますね。


――みなさんの感想を聞いてみていかがですか?


ないとう:

大学で映像コースを選んだのは、コマ撮りアニメを作りたかったんです。しかし実際に受講してみると、授業はCGや商業アニメに関連する内容が多く、自分がやりたかったことができなかったんです。

最後の卒業制作では、映像のジャンルが自由だったので、これなら自分のやりたい放題出来ると思い作りました。

『集大成』は、技法的な部分だけでなく、学生時代にやりたかったけれどできなかったことへの悔しさや、授業についていけなかったことへの不満も反映されています。自分の力不足や怒りなども込められていますね。

ちなみに、作品中にパンツが登場するシーンについては、当時は下着を買うのにハマっていたので、それが影響していますね(笑)

好き勝手に下着のデザインを描いてみたくなりあのシーンを無理矢理導入しました。


〔2024年7月12日(金)オンラインミーティングより〕


【文責:Axi(s)Rhythm】



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