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『共生』(松本玲果監督)インタビュー&感想



※機材の不調によりオンラインミーティング当日の音声記録がなく、後日に改めて行った監督へのインタビューと合わせて再構成しています。


――『共生』を制作されたきっかけ、経緯について教えてください。


松本:

この作品には、私自身が抱えている様々な悩みや葛藤が含まれています。実はこの『共生』という作品の前に、『不安と私と』という同じ登場人物が出てくる作品を作りました。それが1作目で、そこでも不安や葛藤など主に負の感情を描きましたが、今回の『共生』では、前作よりも内容をさらに深めようと考えました。自分の心と向き合うと、誰もが持っていると思うのですが、ポジティブな気持ちとネガティブな気持ちの両方が存在します。もちろん、ポジティブな気持ちでいる方が楽しいし、前向きになれるし、できる限りそうありたいと思うんです。でも、それでもどうしても拭いきれない負の感情があります。

でも、時にはポジティブな気持ちがネガティブな気持ちを傷つけてしまうこともあれば、逆にネガティブな気持ちがポジティブな気持ちを励ますこともあります。お互いが足を引っ張り合う関係でありつつも、実は支え合っているという、そんな精神分析のようなものが、自分の中でまとまってきたんです。

そこで、作品を作る際には、ポジティブにもネガティブにもなり得る存在を象徴するために、あえて同じ顔、同じ見た目の着ぐるみを使いました。

『共生』のラストに、二人が大きな月を見上げるシーンがあります。これは、ネガティブな気持ちとポジティブな気持ちの両方と付き合っていかなければ、という意味を込めています。もちろん、辛いこともあるかもしれない。

私にとって唯一心が浄化される、落ち着くという対象は雄大な自然のような、自分の存在とか感情も忘れてしまう巨大なものです。ネガティブもポジティブもこれからも持ち続けないといけない。それらとうまく付き合うため、自分が美しいものと思うものを見つけていく。そうして自分は生きてるのかなと思い、この作品でそんな気持ちを全部表現したっていう感じです。



 

【オンラインミーティングでの感想・意見】

・疎ましい自分がついて回る。ネガティブとポジティブをどう表現していくのか。着ぐるみのうっとおしい感じ。しかし、何にでもなれる。

・中盤、おんぶをしているところに、誘惑、葛藤、背負っている自分自身を裏切る――何回も繰り返し観た。自分の中での葛藤がありつつ、自分の中の割り切れない思い。自らのことを思い出す。

・机に向かっている女の子。自分が集大成を作っているときが同じような状態だった。キャラが可愛いが寂しそうな目。月が今まで見てきた中で魅力的。クレーターがひまわりのよう。

・しっかりつくってあるアニメーション。深いところでなにかを表現しようとしている。緊張感が良かった。画面のテンション、怖いくらいの印象。

・丁寧に作られている。内容にも感動。共感するところが多くあった。ままならない自分自身を引きずって生きていなければならない。着ぐるみを上手く使われている。未知の向こうに黄色く光る人びとは神様?煩わしい精神を捨てて生きていきたいが、そうはいかない。

・見ているうちに家族、パートナー、仲間…身近な人たちとの関係性がよぎる。人付き合いはハッピーなところもあれば、ひとりになりたいときもある葛藤。

・目に光がなく怖い印象。なつかしい絵本を想起する。月を見るシーン、二人の目にひかりが反射するところが印象的。印象が改めて見ると変わって、優しいタッチの作品と思えた。

・絵の丁寧なテイストが出ている。微妙にノイズがのったり、手の跡を生かしたり。絵作りに時間をかけられている。月をみた目に光が回っているシーンが印象的。絵本にも見える。ポジティブとネガティブが同レベル、主人公から飛び出してしまう。その構造が珍しくおもしろい。肯定が強い、というパターンが多いが同列に扱われている。

・冒頭の机のシーンから現実か想像なのかと思ったが、ウサギの着ぐるみたちが電車に乗って移動する、町中で人がすれ違うシーン、机の人とは別の行動をとっているのか不思議なお話。自己問答するだけではない。2対で一体、他の人にもネガポジをみていたのか?

・キーワード「優しさにくるまれたなら」優しいフィルム。電車の中、色んな着ぐるみを着たひとたち、どんな人も自分と向き合って生きている。自分には自分に優しくしようよ、と思う。音楽も自身で作られている。

 


――道の向こうにいる黄色い人々については?


松本:

もちろん作品をご覧になった方が感じ取ったように想像して頂ければ良いのですが。自分としては完璧な存在、強い憧れ、理想像――そういうものを描きたかった。なので本当にポジティブな子がそちらの世界に行こうとしてたんですけど、ネガティブな子が怖気づいてしまって行けなくて。ネガティブを捨ててまで完璧な世界へ行ってしまうのか、という葛藤のようなものを表現したかったんです。


――二手に分かれる分かれ道について。その先にあるイメージなどは?


松本:

シンメトリーを表現に取り入れるのが好きです。完璧な中にも、緊張感や不気味さも感じています。映画『シャイニング』のようなものを表現したくて。


――作品中でネガティブの着ぐるみの帽子の部分を、ポジティブなほうが剥いでいたシーンにかなりの意味を感じました。


松本:

自傷行為とかではないんですけど、すごく自分を責めたり、傷つけたりしてしまう感覚というか。作品全体を通して着ぐるみは優しい雰囲気のものなんですけど、急にトゲを出す瞬間があるんです。本心を剥ぎ取ろうとする、そういう暴力性、自分を大切にできない気持ちがそこにあって、無理やり自分を引き剥がそうとするような、そんな気持ちを表現したくて、ああいう描き方をしました。


――電車の中の乗客で、全然違うタイプの第三者については?


松本:

電車のシーンでは、三~四体くらいの着ぐるみが出てくるんです。人間の感情って基本的に二つに分けられると思うんですけど、その中にはネガティブやポジティブでは収まりきらない感情を持っている人もいるんだろうなって思って。このシーンは、他の部分とは違って、ちょっと遊び心を持って書いたんです。たいていのシーンは葛藤しながら書いたんですけど、ここは本当に楽しく書けました。

なので、着ぐるみのデザインも人それぞれに違っていて、例えば背中のチャックが開いていたりとか。やっぱり、みんな心のタイプが違いますからね。このシーンでは、そんな違いを表現しつつ少し遊び心を持って描いてみたんです。


――今回の作品でセリフを入れなかったのは、どうしてでしょうか?


松本:

私としては、観てくださる方に少しでも考える余白を持ってもらいたいという思いが一貫してありました。情報を詰め込みすぎないようにして、観る人が自分にとって心地よい声を想像できるような、枠を空けておくという狙いがありました。


――音作りに関して気を付けられていることはありますか?


松本:

ノイズをあえて入れるっていうか、砂嵐みたいな音をちょっと忍ばせるってことを割りとやってますね。物音とかが好きで。個人的な感覚なんですけど、聞いてて不快じゃない、心地のいい音を常に意識してますね。

あと、左右それぞれ別の音が聞こえるとか、そういうのも結構使ってます。スピーカーから聞こえたときに、観ている人が臨場感のある体験ができるように。音に対しては、なんか楽しんでもらおうっていう気持ちが強いかもしれないです。



〔2024年7月12日(金)オンラインミーティング/7月26日(金)再インタビュー より〕


【文責:Axi(s)Rhythm】

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